大判例

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東京高等裁判所 昭和53年(う)1322号 判決

被告人 落合庸良

〔抄 録〕

次に論旨は、検察官請求にかかる斉藤公子の司法警察員に対する昭和五二年一一年二四日付供述調書を刑訴法三二八条の書面として取り調べた原審の措置には、訴訟手続の法令違反がある、というのである。

よって検討するに、記録によれば、前記斎藤公子作成の弁護人宛の供述書が刑訴法三二八条書面として取り調べられた後の公判期日において、検察官から、右供述書の後に作成された所論指摘の供述調書を右同条の書面として取調請求し、原審はその取調をしたこと、右供述調書には、弁護人提出の右供述書の作成経過等に関し、「原審で証言した後村上弁護人から上申書を書いて欲しいとの申出があり、喫茶店で同弁護人と会い同人が自分の話を聞きながら作成した供述書に署名した。その中には事実と違うことがかなり書かれていて、自分の本心と全く異る内容の供述書であり、自分は同弁護人に対し偽証罪になると困ると言ったが、同弁護人が、『これは私が裁判のときにあなたに質問するメモにする、公には絶対に出さないんだ』と言うので、早く裁判が終ってほしいという願いもあって、右供述書に署名した。自分が公判廷で証言したことは真実である。」との趣旨の記載があること、が認められる。

右によれば、検察官請求の右供述調書は、弁護人請求の供述書によって一旦減殺された斉藤公子の原審証言の証明力を回復する内容のものであり、検察官もその趣旨のもとに同供述調書の取調を請求したものであることは公判調書の記載上明らかである。

ところで刑訴法三二八条の弾劾証拠とは、供述証拠の証明力を減殺するためのもののみでなく、弾劾証拠により減殺された供述証拠の証明力を回復するためのものをも含むものと解するのが相当である。けだし、同法三二八条には「……証明力を争うためには、これを証拠とすることができる。」とあり、規定の文言上証明力回復のための証拠を除外すべき根拠に乏しいばかりでなく、右のように解することがすなわち攻撃防禦に関する当事者対等・公平という刑訴法の原則、さらに真実の究明という同法の理念にもよく適合するからである。同条の弾劾証拠を証明力減殺のためのものに限定する所論の見解には賛同できない。

なお所論は、仮に証明力を回復するための弾劾証拠が許容されるとしても、検察官請求の供述調書は、結果的に斉藤公子の原審証言の証明力を増強する趣旨をも含むものであるから、いずれにしても同調書は刑訴法三二八条の書面としての適格性を欠くと主張する。

しかし、本件において、検察官が、いったん減殺された斉藤公子の原審証言の証明力を回復する趣旨のもとに同人の前記供述調書の取調を請求したものであることは前記のとおりであり、同調書の取調により事実上同人の原審証言の証明力が増強される結果となったとしても、これによる不利益は前記のような内容の弾劾証拠を提出した被告人の側において甘受すべきものであって、このことのゆえに右調書の刑訴法三二八条書面としての適格性を否定すべきいわれはない。

それゆえ、右調書を同条の書面として取り調べた原審の措置には、何ら訴訟手続の法令違反のかどはなく、論旨は理由がない。

(岡村 小瀬 南)

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